貫之の心・私の元永本古今和歌集

一味違った古今集の解読を試みたものです。
抒情詩として読まれてきましたが、「掛詞」をキーワードに解読してみると、政治的敗者の叙事詩が現れてきました。その一部、かな序だけでも鑑賞していただけたらと思います。

(12)万葉仮名は、意味を引きずる

万葉仮名は、漢字一字に一音を対応させて、表音文字として用いた知恵である。しかし、表意文字の漢字の本質は、音としての表現から、意味を完全に取り去ることを許さない。表音文字として使いながら、やはり、漢字の持つ意味は、付きまとい、また、それを使いこなす知恵を当時の人々は、持っていたのである。


かな序に、本来は、万葉仮名で表記された万葉集にある赤人の歌を、平かな表記で、貫之は引用している。
はるのゝに すみれつみにと こしわれそ 野をなつかしみ 一夜ねにける
春野尓   須美礼採尓等  来師吾曽  野乎奈都可之美 一夜宿二来(巻8 1424)


5句が、意訳になっていることがわかる。
「一夜宿二来」は、「一夜また宿す」と言っているのである。平かなの「に」は、助動詞であるが、万葉仮名の「二」は、明らかに、副詞の「再び」の意を込められている。その意は、平かな表記では、2句の「すみれつみにと」の「にと・二度」にこめられていることを裏付けるものであろう。ここに、「再び」の意があるからこそ、「宿二来」を「ねにける」と訓読しても、本来の意味が失われないとみたのである。


赤人の歌の本意は、
「刑部(うたへ)の仕事で二度訪れたことがあるので、その時行ったことのある女郎屋を懐かしみ、また一晩その宿に泊まってしまったよ。」
痴話の前編である。本文p.46の補足です。

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