貫之の心・私の元永本古今和歌集

一味違った古今集の解読を試みたものです。
抒情詩として読まれてきましたが、「掛詞」をキーワードに解読してみると、政治的敗者の叙事詩が現れてきました。その一部、かな序だけでも鑑賞していただけたらと思います。

(19)あかねさす…の相聞歌

あの有名な額田王と大海人皇子の蒲生野の相聞歌を解読してみたい。これまで、元永本古今和歌集で鍛えられた「掛詞」の解読眼が試される…


万葉集巻第一(20)には、「天智天皇が蒲生野で狩りをなさった時、作った歌、額田王」とあり、次に大海人皇子の歌とあるように、相聞歌。


(20)天皇(天智)蒲生野に遊猟したまふ時に額田王が作る歌
  茜草指   武良前野逝   標野行   野守者不見哉  君之袖布流
    あかねさす むらさきのゆき しめのゆき のもりはみずや きみのそでふる


あかねさす=赤根(男根の暗喩)・挿す(性交する)
むらさき=女陰の暗喩、作者額田王自身のこと。
しめの=他人の立ち入りを禁止した天皇家の領地、本来情交してはいけない大海人皇子の
    暗喩。
ゆき=(性的に)イク。
のもり=箆(矢の竹の部分)も・離。(=矢と竹も離れている位ぴったりとくっついて)
    「のもせ(野も狭=野も狭い位に広い)」の類語とみた。
みずや=情を交わしたではありませんか。見る=男女が結ばれる。
そて=祚(天皇の位)・手(配下)、つまり、皇太子の暗喩。
ふる=神体などを移す、ここでは、皇太子の位を移す。


「性交して、私がイキ、禁じられているあなたがイキ、矢と竹も離れている位ぴったりと抱き合い情を交わしたではありませんか。あなたは、皇太子から、外されるわね。」


(21)皇太子(大海人皇子)の答へたまふ御歌
  紫草能   尓保経敝類妹乎 尓苦久有者 人嬬故尓    我恋目八方
  むらさきの にほへるいも にこくうは ひとつまゆえに われこひめやも


従来の2,3句の訓みは、「にほへるいもをにくくあらば」である。「憎く」が唐突で、意味不明な上に、字余り。別の読みを考えたのが上記の訓み。下線の「や」は詠嘆の助詞。


にこくう=にこ(和、柔)・くう(宮=天皇家の人々の敬称)。額田王のこと。従順
    な、また、情を交わした仲なので、その肉感を表現しているかもしれない。
ひとつま=非(不利な立場にあること)・と・端(きっかけ)。
こひめ=乞ひ目(出てほしいさいころの目)、即位することを暗喩。


「紫のように美しいあなたよ、天皇の従順な女となって、人妻になったので、私が不利な立場にあっても、きっかけがあれば、あなたの願望の的になるかもよ。」


元妻が、不倫したからには、次の即位は無理ねと突き放した歌を送れば、大海人皇子は、いやいやまだわかりませんよ、とばかりに即位への野心を詠っているとみた。


こうした掛詞が、万葉集に満載されていたからこそ、貫之らは、古今集でもそれを踏襲したのであろう。私は、古今集でそれを見出し、万葉集の歌を理解できた。

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