貫之の心・私の元永本古今和歌集

一味違った古今集の解読を試みたものです。
抒情詩として読まれてきましたが、「掛詞」をキーワードに解読してみると、政治的敗者の叙事詩が現れてきました。その一部、かな序だけでも鑑賞していただけたらと思います。

(22)すく(秀句)は3通りに読める

一つの文を三通りに理解していた貫之らの頭の中は、どうなっていたのだろう。解読を進めてきたが、だんだんと、そのすごさに恐ろしくもなってきた。三通りに読めても、私はその一つを解説の中から捨てていた。まあ、そうも取れるな、位の軽い意味だから、そこまで取り上げることはない…と。しかし、そうした歌が次々と出てくる。果たして、付け足し程度の意味であったのか。考えてみれば、彼らにとって、本音の生活感であったのではないか。そうであれば、無視していいはずない。三通りの解釈ができる例として、貫之の歌で説明したい。


(2)はるたちける日 よめる                    紀貫之
そてひちて むすひしみつの こほれるを はるたつけふのかせや とくらん


この歌は、巻第一春歌上の二番目にある。有名な歌。「礼記」の「孟春の月東風氷を解く」を下敷きにしているとどこの解説にもある。


そてひちて=袖、祚手(皇太子の暗喩、敦仁親王のこと)・ひぢ(自四連用形・ぬれ
     る)、被治(支配されること)・て。
むすひしみつ=結び(他四連用形・手を合わせる、約束する)・し(回想の助動詞「き」
     連体形)・水、密(密約)。
こほれるを=凍れ(自四已然形)、毀れ(自下二未然連用形・壊れる)・る(完了の助動
     詞「り」連体形、四段活用には、已然形、下二サ変には、未然形につく)・ 
     を。
はるたつけふの=春・立つ、発つ・今日、脇(音読みでケフ、邪魔者)・の。
かせやとくらん=風、枷(時平の暗喩)・や・解く、遂ぐ(他下二・成し遂げる)・ら
     む(推量の助動詞)。


歌意①従来の解釈
   夏袖を濡らして、手を結んで飲んでいた水は、冬凍り、春となった今日の東風は解
   かしているであろうか。
歌意②掛詞による政治歌
   敦仁親王は、(父宇多天皇に)支配されていたのに、約束した「寛平の御遺誡」を
   破ってしまったが、春、太宰府に左遷された右大臣道真の脇にいた(邪魔者の)左
   大臣時平は、それを成し遂げるであろうか。
歌意③掛詞による私情
   約束した秘密の昇進も、涙に濡れ果たされなかったが、今度の春は、解決されるだ
   ろうか。


宇多天皇は、長男敦仁親王の元服を待って、893年譲位。その際、左大臣時平、右大臣菅原道真を中心に親政を行うよう、「寛平の御遺誡」を与えていた。しかし、醍醐天皇は、901年道真を左遷してしまい、大きな禍根を残し、930年道真の怨霊に震え死ぬことになる。
正に、道真左遷の春に詠んだとみられ、時平の政治手腕を、期待半分疑っているともみえる。その上で、自分の置かれた身分の低さに嘆き、昇進の期待を詠っているともとれる歌ではないか。ひょっとして、これが最も、言いたかったことかもしれない。だとすれば、これは、書き逃してはならないだろう。貫之の心として。抒情詩として。

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