貫之の心・私の元永本古今和歌集

一味違った古今集の解読を試みたものです。
抒情詩として読まれてきましたが、「掛詞」をキーワードに解読してみると、政治的敗者の叙事詩が現れてきました。その一部、かな序だけでも鑑賞していただけたらと思います。

(41)百済と新羅

平安時代までの政争は、どうも、新羅系と百済系の争いのようにみえる。
天武天皇は、新羅系。天智天皇は、百済系である。半島の民族の抗争は、複雑なのだが、極々単純化してみれば、その半島の抗争の果てに、敗残の支配層が、家来を引き連れて列島に避難して、この列島で支配の再構築をしようとしたのが、その歴史のように私にはみえる。


古今集巻第20は、最後の巻で、光仁天皇以前の古い歴史が語られている。そこに現れるのが、百済と新羅の鮮明な対立である。これらの人々が、半島からの避難民の果ての実態ではないかと思い至った。


百済は紀元前の中国の歴史書に見られる「朝鮮」のことと私は理解した。高句麗から、南下して馬韓となり、百済となった騎馬民族。後に、660年唐と新羅に滅ぼされる。だから、百済は新羅に恨みを持ち、百済と新羅は、犬猿の仲である。その新羅は、殷に出自を持つ中国系の人々の国。「羅」は、薄物の布ということは知っていたが、鳥を取る「網」の意。ある鳥(朝・鮮)を取るために、もう一つの新しい網が必要だという兵法を説いた国名とみえる。


斑鳩といい、飛ぶ鳥の飛鳥といい、「鳥」は(音読みで)朝(朝鮮)でもある。一方、飛鳥は、「非朝」つまり、「朝鮮にあらず」、新羅ということ。そうした意味をこめて天武は、飛鳥の地に都を定めているとみた。


天武と額田王との娘、十市皇女は、大友皇子(天智の子)の妻。父天武が、672年壬申の乱で、大友皇子を死に追いやり、即位すると、その板挟みに、父を恨んだであろう、6年後没している。彼女のそばに仕えた侍女であろうか、吹芡刀自という女性の歌が万葉集にある。


万葉集(22) 十市皇女 伊勢神宮に参赴ます時に 波多の横山の巌を見て吹芡刀自が作る歌。
河上乃   湯都盤村二 草武左受 常丹毛冀名 常處女煮手
(河の上の ゆつ岩群に 草生さず 常にもがもな 常処女にて)


「五十鈴川にある多くの岩には、草が生えません。そのように、永遠に生えなければいいのに、(十市皇女様は五十鈴川のように)いつも清らかな方なのだから。」
これが、従来の解釈である。


この詞書は、挑戦的である。
波多の横山の巌=秦(新羅系)の横(乱暴な)山(天武天皇)の巌(いつ=勢いが盛んで
     激しいこと)。
吹芡刀自=吹・芡(水草名、みづふき)刀自(女性の敬称)、十市皇女の侍女であろう。
     「欠」がそれぞれの漢字の中にあり、「ふき・不義」が目立つ名前である。既
     に、大友皇子を欠いた(殺した)のは、不義と言わんばかりである。歌のため
     の架空の名前なのかもしれない。


「十市皇女が伊勢神宮に遣わされた時、新羅系の乱暴な(天武)天皇の隆盛を見て、(不義を非難する)吹芡刀自が作った歌」ということになる。


河の上=五十鈴川、河(家系が続くことの暗喩)・の・上、家。
ゆつ磐群=神聖な岩の集まり。弓(武力の象徴)の家(いは)軍。
草むさず=草(=日、天子、大友皇子)生さ(自四未然形・はえる、生まれる)ず。
常にもがもな=常に(形動ナリ連用形・永遠)、常人(普通の人)・もがもな(…で
     あったらなあ)。
常処女にて=常(形動ナリ・ずっと)処女にて、常処(ふだん)、(音読みで)じゃう
     しょ、尚書(書経の異称)・女、如・にて。


「(続いてきた天智の)家系が武力の(天武の)家系の軍に遇って、(天子になるべき)大友皇子が(殺され)亡くなった。(夫を亡くした十市皇女が)普通の人であったらなあ、書経のいう如くに。」


十市皇女が天武の長女であったことを、書経を引いて呪っている歌とみた。書経は、儒教の重要な経典である五経の一つ。古代中国の歴史書で、伝説の聖人や天子を例に挙げ、政治上の心構えや訓戒などが記載されている。書経とは、聖人の定法という意味だから、この書に沿った生き方しか、許されない哀れな十市皇女を詠んだ歌とみる。書経に、天子の娘の生き方をどのように説いているのかは、わからないが、(もっと万葉集の歌の解読が進めば、そこに詠まれているかも)大友皇子死後、6年後、彼女は急死している。


新羅と百済との宿命的政争に巻き込まれたということだろう。673年新羅系天武が列島で強大な中央政権をつくったことは、半島を676年新羅が統一したことにも対応している。


それにしても、この侍女らしき(架空の設定かもしれないが)人物が、十市皇女と共に書経を読んでいたということになる。中国の歴史書を読んでいる… こんな教養人の女性がこの時代に存在するなんて!!

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