貫之の心・私の元永本古今和歌集

一味違った古今集の解読を試みたものです。
抒情詩として読まれてきましたが、「掛詞」をキーワードに解読してみると、政治的敗者の叙事詩が現れてきました。その一部、かな序だけでも鑑賞していただけたらと思います。

(70)是忠親王は、皇位継承できず

(867)むらさきの 一本ゆゑに むさしのの くさはみなから あはれとそみる


「紫草が一本あると言うだけで、武蔵野の草は、全部が上品に見えることよ。」
説明は省くが、もう一つの意味は、
「一品である故に、光孝天皇の長男是忠親王は、いたわしいことよ。彼の母班子女王は(宇多天皇の)悪口に忙しい。宇多は、悪いと思いながら、是忠は立派だとみた。」


宇多は、淑子の猶子となっていたので、藤原氏のバックアップを得て、長男是忠を飛び越えて、即位に至っている。長男是忠の心中は、いかがか?後撰集に彼の歌があるので、解読してみた。
後撰集(550)
いと忍びたる女に あひ語らひてのち 人目につつみて又あひかたく侍りけれは


いと忍びたる女に=いと忍び(他上二連用形・秘密にする、こらえる)たる目(境遇)に。
あひ語らひてのち=相語らひて後。遇ひ語らひて後。
人目につつみて=人目に慎みて。人(宇多天皇)目に慎みて。
又あひかたく侍りけれは=又逢ひ難く侍りければ。


(詞書)たいそう我慢の目に遇って、話をして後、宇多天皇に気兼ねして、再び会いにくくございますので。


逢事の 片糸そとは 知りなから 玉の緒許(ばかり) 何によりけん


逢事の=あふ(感動詞・おおっ)事(事件)の。
片糸そとは=堅し(かたし、形ク終止形・確かなさま)そと(副詞・そっと)は。
玉の緒許=玉の緒(皇統の暗喩)の許し(ゆるし)。


おおっ、事件(七男の定省が即位したこと)は揺るぎない。薄々知っていたが、皇位継承の許しは、何に基づいたのだろうか。


光孝長男として、是忠親王の不満は消えない。しかし、そのプライドを守るために、宇多は彼に一品を与えて一目を置くことを忘れていない。

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