貫之の心・私の元永本古今和歌集

一味違った古今集の解読を試みたものです。
抒情詩として読まれてきましたが、「掛詞」をキーワードに解読してみると、政治的敗者の叙事詩が現れてきました。その一部、かな序だけでも鑑賞していただけたらと思います。

(71)行平の怨念

(884)あかなくに またきも月の かくるるか 山の端にけて 入れずもあらなむ 業平
「まだ満足もしていないのに、早くも月が隠れるのだろうか。山の稜線が逃げて入らないでほしい(惟喬親王もまだここにいてほしい)。」
長い詞書のある業平の歌。
解説は省くが、この歌で、業平は、「惟喬親王の弟惟条親王を殺したのは、兄行平だ」と、驚嘆をもって詠っている。


この歌は、伊勢物語82段にあり、段中、その次にある紀有常の歌を解読して、その周辺を探ってみたい。


…(惟喬)親王にかはりたてまつりて 紀有常
おしなへて 峰もたひらに なりななむ 山の端なくは 月も入らじを
「すっかり峰も平らになってほしい。山の端がなければ、月もそこには入らないでしょうから。」


おしなへて=押し並べ(他下二連用形・押し伏せる)て(次に続く)。
峰もたひらに=(前から続いて)手(接頭語・程度のはなはだしい意を添える)(別の訓読
    みで)怨(をん)黙(もだ)嬪(ひん、更衣)ら(親愛の情を表す接尾語)に。
なりななむ=成り(自四連用形・許される)名(な)並む(なむ)。
山の端なくは=(前に続いて)や(反語の係助詞)真(ま、真実)の階(はし、位階)無くば。
月も入らじを=次(つぎ)も要ら(いら、自四未然形・必要になる)じを。


「(行平は)強い怨念を押し殺して黙っている。更衣に許され、(皇后の)名を連ねるのだろうか(そんなことはない)。本当(皇后)の位が無ければ、次男は必要ないだろうから。」


行平は、平城天皇の長男阿保の次男(母は不詳)。直系の家系にありながら、相応の身分を得られていないことに不満を持っていた。惟喬親王は、更衣紀静子の子で、更衣は、皇后と肩を並べることはできないと、行平は判断している。清和を擁護しているから、この時期、正四位下まで昇進している。皇后ではない更衣の次男は必要ないと行平は、惟条を殺したということだ。その心理状態は、計りにくいが、これには、業平も驚愕して、同族の身ではないかと、(884)では、非難している。優れた行政官である反面(がゆえに)、激しい嫉妬心の持ち主であった。

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